第2章 ある日、突然
情けなさに、涙がこぼれそうになったその時。
「ひいろさん?」
鬼灯様が、私の名前を呼んだ。鼓動が一気に高まる。
もう鬼灯様は知っているんだろうか。大王は気にしなくていいって言ったけど、あれは嘘なのかな。
何のことかわからずに不思議そうだった鬼灯様のあの顔は、全部演技だったのかな。
しなくてもいい余計な想像が膨れ上がる。
ごめんなさい。こんな私が調子に乗ってごめんなさい。私が普通の生活なんて送ろうとしてごめんなさい。こんな気持ち悪いヤツなんて嫌いだよね、だからこんなことされなきゃいけないんだよね……
「ひいろさん!?」
強く名前が呼ばれた。少しだけ遠慮したように、鬼灯様の手が肩に置かれる。
骨ばった大きなてのひら。揺れる黒髪。
アイツだ。きっとアイツなんだ。
「待って、ごめんなさい、ごめんなさい……謝るから…許して…ねぇ、許してよ……」
その後私は、誰に許しを請おうとしたんだろう。
酷く恐れていた誰かの名を呼ぼうとしたまま、意識が途切れた。