第2章 ある日、突然
そして。
私が最も恐れていた時間がやってきた。
仕事は終わり、入浴もそれぞれ大浴場で済ませている。あとは寝るだけだ。
そう、寝るだけ…。
大王の前では明るくふるまってはみたけれど、本当は私の問題は、ふざけて言えるようなことじゃない。
二人きりの部屋。私が顔を下げると、鬼灯様の入れてくれたコーヒーの湯気が顔に当たった。
ふわりとしたその温もりに、ほんの少し励まされる。
「……あの……。」
「はい?」
言わなきゃ。言わなきゃ、いけない。
鬼灯様がこっちを向いたのがわかる。
「っ……。なんでも、ないです……」
ダメだ。自分が傷つくのが怖い。ただそんなワケないって思えばいいのに、できない。
いつだってそう。他人のためじゃなくて、自分のため。自分が傷つくのが怖くって、結局勇気が出ない。
伝えるのは、たった一言でいいのに。
私について。私のしてしまうことについて。
それがどうしてもできないのは、あの記憶のせいだろうか。今も消えない、3年前の出来事の。
私は、弱くて、ずるくて、卑怯で……。