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【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】

第2章 僕と貴方の唇は


翌日。
EXのリハーサル中、リンクで滑る礼之を見守る純が欠伸を噛み殺しているのを認めたヴィクトルは、彼に近付くと面白そうな顔で囁いた。
「どうしたの?ひょっとして、昨夜は『ヒゲさん』とお楽しみだったとか?」
「痛点フルコースの刑にされたいんか。幾ら今回会場が大阪いうても、近くに部屋取るに決まっとるやろ」
実家は京都の純だが、競技を引退し大学院を卒業後間もなく、現役最後のコーチで現在は恋人の藤枝と大阪で暮らしている。
純が振付師として活動する時に「藤枝」を名乗っているのは、プロスケーターとしての自分との区別の他に、愛する彼と一緒に生きていくという意志が、いつからか純の両の耳元をさり気なく飾るようになった小ぶりのピアスと共に込められていた。
「昨夜あれから、いきなり礼之くんから連絡あって『今回だけEX変更させて下さい』て。しゃあないから知り合いのリンクに話つけて、早朝からそこで一緒に打ち合わせと練習、そのままこっちに戻って来てん」
今季の礼之のシニアデビューに当たって、SP・FS両方のプロ作りを依頼された純だったが、それとは別にオフシーズンに遊びでEXのようなものも一緒に作っていた。
しかし競技プロとのバランスや、全てのプロを未だ振付師としての実績に乏しい純1人に固定するのはどうかとコーチ達とも話し合った末、EXはジュニア時代から礼之のプロを手がけていた北米の振付師に任せる事になり、純とのそれはお蔵入りになっていたのである。
「嫌なら、断ればよかったのに」
「僕は、スケートへの真剣な想いからの頼み事には弱いねん。昔、誰かさんから『君のプロを踊らせて』て言われた時とおんなじで。トップを行く競技者って、皆どっか似たトコあるよな」
「…ふーん。ま、あのユリオが柄にもなく慌てふためくのを見るのは、面白いけどね」
「趣味悪いで」
ヴィクトルに返しながら、純は堪え切れずに小さく欠伸をすると、リンクの礼之に視線を戻す。
ロシア大会でのEXで見せたコミカルな演技とは全く異なる礼之の動きを見て、純はそっと目を細めた。
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