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【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】

第3章 再会と甘い予感


「アレクくん、何してると?」
南が覗き込んだ先には、ありふれたチョコレートの包みがあった。
「去年から食べ続けて、とうとうこれが最後の1個なんです」
「ひょっとして、チョコレートに願掛けとか?」
「いえ。それよりも、コレを食べて欲しい人がいまして」
残り1つとなった時、何故だか礼之はそれを食べる事が出来なくなった。
口にしてしまえばこのチョコレート同様、彼と過ごした時間や彼への想いまでも消えてしまうのではないか、と不安になったからだ。
ならば、最後の1つは彼に食べて欲しい。
そうする事できっと、あの日の出来事と自分の気持ちを改めて認識できると思うから。
勇利の質問に首を振った礼之は、小さなキスチョコを眼前にかざすと青い瞳を細めた。

抽選会へ向かう車の中で、ユーリは移動の疲れと時差ボケだけが原因ではない苛つきを覚えつつ、手の中の包みを睨みつけていた。
「待ってろよ、あの甘ちゃんめ…会った瞬間テメェの口ン中に、ねじ込んでやるからな」
礼之から渡されてからというもの、様々なモヤモヤを抱えながら、妙に緊張感満載の「糖分補給」を繰り返してきたユーリだったが、いよいよ最後の1つとなった所で理不尽な怒りがこみ上げてきたのだった。
自分が競技以外の悩みを抱えるようになったのも、全てはコイツのせい。
だったら、丁度良いからこのワールドで忌々しいコイツをアイツに突っ返してやれ。
本当は食べずに返す所を、ラスワンだけにしてやった俺の慈悲深さに感謝するがいい。
小さな包みからも仄かに漂うカカオの香りに、ユーリは今では条件反射的に脳裏をよぎるようになってしまったあの日の彼の言動や感触を、必死に頭を振って打ち消そうとした。


「Ihana(素敵)!何この偶然!僕達同じ事考えてたんだね!」
「黙れえぇ!このクソエロ侍がああああ!」
「私語は慎みなさい!」


その日。首都圏某所の抽選会場では、お互い同じキスチョコを手にした2人のスケート選手によるやり取りが繰り広げられたという。


─完─
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