恋に落ちる瞬間は(仮)[ONE PIECE/サンジ]
第3章 過去と今
幼い頃、身寄りもなくたった一人で海辺にいたボロボロの私を拾って娘のように可愛がってくれたのが船長のノーティ…私のお父さん。彼はいつも悪態をついていたが本当に私を愛してくれているのを私は知っていた。クルーのみんなに俺はちゃんと良い親になれているのかと不安そうに話していたのも私は知っていた。そして、彼がある事を願っていた事も私は知っている。親になろうとしてくれていた彼の願いは《私がまた一人にならないように、私がずっと笑っていられるように、ずっと私の隣にいてくれる、そんな人と一緒になること》だった。そして私はユージーンと出会い、恋に落ちた。お父さんの願いの通り、ユージーンはいつも隣にいてくれたが結局また私は一人になってしまった…。
「一人で辛くなかったの…?」
「だから私はあのお店を始めたんです…酒場なら誰かがくるから一人になることはありませんでした」
力なく笑って見ればふわりとナミさんに抱きしめられる。
「ナ、ナミさん?」
「よく頑張ったわね」
「え?」
「この広い世界で一番怖ェのは一人になる事だ、一人になるのは痛ェより辛ェんだ」
ルフィさんがカップをテーブルに勢いよく置くと真剣な面持ちで私を見た。痛いより辛い。まさにその通りで痛みは時間が経てば癒えるが、辛さは癒えることはなかった。喉がぐっと締まったかと思えば、視界が揺れぼたぼたと両目から涙が溢れ出し、ナミさんの服が涙で濡れていく。堪え切れなかった嗚咽が漏れ、しゃくり上げる。
「…っ、うぅ、っ…うぇ…」
一度流れた涙は止まる事を知らなくて堰を切ったように流れ続ける。
「よし! サーシャ、今日からお前は俺たちの仲間だ!」
ガタンと椅子を倒しながらルフィさんが声を張り上げ、両腕を突き上げた。驚いて一瞬涙が止まったが、ウソップさん、チョッパー、フランキーさん、そしてブルックさんがルフィさん同様に椅子を倒しながら大声をあげて私を受け入れてくれ、ナミさんが顔に張り付いた髪を払いながらよろしくねと笑いかけてくれたのをきっかけに私はまた嗚咽を漏らしながらしばらく泣き続けた。ゾロさん、ロビンさんは笑ってそれを見守っていた。
でもただ一人、遠巻きにその様子をつめる視線に私は気付きもしなかった。
お父さん、また私を仲間と読んでくれる人たちが海にいたよ。