恋に落ちる瞬間は(仮)[ONE PIECE/サンジ]
第4章 臆病な自分
「あ、ありがとう、ございますっ…うぇ…っ」
嗚咽を漏らしながら泣く私のそばで誰かが跪く。流れる涙をそのままにそちらを見るとサンジさんがいてズボンの後ろポケットに手を入れると何かを私の前に差し出した。
「どうぞ、プリンセス」
「ありがとうござい、ます…」
プリンセスと呼ばれて驚きつつも、差し出されたものを受け取る。それは綺麗にアイロンがけのされた真っ白なハンカチ。再度サンジさんの顔を見ると何故か満足そうに微笑んで、優しく撫でるように私の頭に手を置くと立ち上がってテーブルの上の食器を片付け始めた。器用に重ねた食器を両手いっぱいに持ち、サンジさんがキッチン奥へと姿を消すとナミさんが口を開く。
「サンジくんがそれを渡すとはねぇ」
「それだけこの子のことを気に入ったんじゃないかしら」
「ははーん、そういうことね」
ロビンさんがナミさんの読み終えた新聞を開いて文字を目で追う。ナミさんは私の目から涙が止まったのを確認すると立ち上がり、うんうんと頷きながらダイニングを後にした。他のみんなはすでに甲板へと出て行き仲間が増えた、やったなどと騒いでいる。みんなに歓迎されたと分かり、また涙が込み上げるがこれ以上泣くのはと考えて堪えた。
「ここの人たちはみんな優しいから安心してね」
「ロビンさん…」
新聞を綺麗に畳んでテーブルに置くとロビンさんはコーヒーを飲み干して、ナミさんの後を追うようにダイニングから姿を消した。ダイニングに残された私はサンジさんから借りたハンカチで目元を拭うとキッチンの方を見る。姿は見えないが、水の流れる音とカチャカチャと食器同士がぶつかる音が響いている。手持ち無沙汰になり、どうしようかとテーブルに視線を移すとまだ片付けられていないカップたちが目に入ってきた。
「…これくらいしないとね」
ハンカチをスカートのポケットへと押し込むと、私はトレーを手に取り10個のカップを乗せた。紙ナプキンなども一ヶ所に集めて、トレーと一緒に置いてあった布巾でテーブルを綺麗に拭きあげる。常日頃から綺麗にしてあるせいか軽く2往復しただけでテーブルはピカピカと光輝いて、その表面に目を真っ赤に充血させた私を映した。酷い顔だと思いつつも、カップの乗ったトレーを両手でしっかりと持ち、サンジさんの元へと向かった。