恋に落ちる瞬間は(仮)[ONE PIECE/サンジ]
第3章 過去と今
「サーシャちゃん、こっちにおいで」
あれから何とかみんなの誤解を解いた私たちは、ダイニングへとやって来た。先程の騒ぎの中に姿の見えなかったルフィさんはずっとここで朝食を食べており、何で来なかったのかというナミさんの問いかけに気付かなかったと一言言うと、またお肉にかぶりついた。他のみんなも途中だった朝食の続きを始め、私はどうしたらいいのかわからず、ダイニングの入り口で立ち往生しているとサンジさんが声をかけてくれた。そーっとそちらまで足を進めればさりげなく椅子を引いて座らせてくれる。その所作があまりにもスムーズで慣れているんだと直感する。
「サーシャちゃんはコーヒーがいいかい?それとも紅茶?」
「えっと…紅茶で」
「了解っ!」
椅子に座る私に目線を合わせくれるサンジさんへそう頼むと、彼はニッと笑ってキッチンへと向かった。左を見ればナミさんがコーヒー片手に新聞を読んでおり、椅子を一つ飛ばした右を見ればウソップさんがチョッパーと楽しく談笑していた。朝からワイワイと賑やかな食卓に私は自然と頬を緩ませる。こんなの久しぶりだ。
「ところで、サーシャはこれからどうするの?」
バサっとナミさんが読んでいた新聞を閉じると私を見た。他のみんなも同じ事を思っていたのか急にしんとなり、いくつもの視線が注がれる。
「それは…私にもわかりません」
「わからないってどういう事?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、ナミさんや他のみんな、そして紅茶を片手に私の隣へと腰を下ろしたサンジさんが首を傾げる。いただきますと私の前に置かれた紅茶を一口飲むと私は話を始めた。あの日の出来事を。あの日からの日々を。かつて好きだったユージーンの事も全て。
「5年前の話になりますが…」
話し終える頃には、チョッパーとフランキーさんが涙を堪え切れずおいおいと号泣していた。ちらりと右隣を見るとサンジさんは黙って立ち上がり、換気扇の近くまで足を進めるとポケットから煙草を取り出し火をつける。彼の長い前髪が邪魔をして、私の席からはその表情は読み取れなかった。
あの日、この村に漂流した私は死にものぐるいで一味の情報を集めたが、彼らの情報は私の耳に入ってくることはなかった。両親も兄弟もいない私にとって彼らが唯一の拠り所だったのに。