恋に落ちる瞬間は(仮)[ONE PIECE/サンジ]
第2章 湯気の向こう側
一時店を後にした私はルフィさんの船へとやってきた。でもさすがに夜も遅かったので、他のクルーさんへの挨拶は翌日にということになり空き部屋を貸してもらった。編み込んだ髪を解き、部屋の隅に置かれているベットへ仰向けで倒れこむ。空き部屋の為、手入れはあまりされていないようで埃が少々舞ったがこの際何でもいい。
「はぁー……」
自然と出たため息を隠すように腕で目を覆うと目の前が真っ暗なる。ふと頭をよぎるのは店の事だ。どうしてもやりたかった訳じゃない。ただ何かしないと生きていけなかっただけ。居場所を作りたかっただけ。真っ暗な視界で考え込んでいるとコンコンと部屋の扉が鳴った。慌てて起き上がり扉を開けると毛布と2人分のカップを持ったサンジさんが立っていた。
「こんばんは、少しお邪魔していいかな?」
「ど、どうぞ」
サンジさんを見るだけで騒ぐ心臓を無視してサンジさんを部屋の中へと招き入れる。
「今日は少し冷えるからこれをと思ってさ」
サイドテーブルにカップを置くとサンジさんは持っていた毛布を私に差し出した。毛布からはムスクと煙草の匂い…
「これサンジさんのじゃ…?」
「よくわかったね、でも俺は使わないからサーシャちゃんに」
「で、でも」
「女の子が身体を冷やしちゃダメだ」
「あ、ありがとうございます」
優しく微笑むサンジさんにどうやら私は勝てないようで、素直に差し出された毛布を受け取る。鼻腔をくすぐるその甘い香りについにやけそうになるのを我慢しながら、笑って頭を下げると一瞬サンジさんの目が大きく見開いた気がしたが、すぐに元に戻っていた。私の見間違いなのだろうか。
「…っ、あ、あとこれも」
熱いから気をつけてと差し出されたカップを覗くと、中にはミルクが入っていた。湯気が立ち込め、ほんのりとサンジさんとはまた違った甘い香りが頬をかすめた。
「いただきます」
「召し上がれ」
湯気を割るようにふぅふぅと冷まし一口飲み込むと、ホットミルクの熱が冷えていた身体に伝っていくのがわかった。壁にもたれて立ったままカップに口をつけているサンジさんを、チラリと盗み見るとバチっと目が合う。恥ずかしさのあまり思わず顔を逸らしてしまった私を見ながら、サンジさんは少しの間をおいて小さく呟いた。
「店、すまなかった」
「え?」