恋に落ちる瞬間は(仮)[ONE PIECE/サンジ]
第3章 過去と今
彼女いる部屋の前まで来ると俺はそっと扉を開ける。本来ならば、神聖なレディの部屋を訪ねる時はノックをすべきなのだが、まだ寝ていたらそのまま寝かせてあげようと考えての行為だった。ゆっくり音を立てないように気をつけながら開けると、昨夜俺が貸した毛布の上で、まるで猫のようにうずくまる彼女がいた。
いい匂いとぽつりと呟いて目を閉じる。何て可愛らしい事をしているんだと思うと同時に、自分の身体が熱くなるのを感じた俺はぽりぽりと頭をかいた。そして彼女はすりっと毛布に頬ずりをして大きく息を吸い込んだ後、勢いよく起き上がった。どうやら俺の気配に気付いた様だ。
おはようと声をかければ、青ざめた表情から一変して茹でタコのように真っ赤になった顔で彼女が叫んだ。よく通るその声を聞いたみんながすぐさま駆けつける。一番に駆けつけたナミさんが赤い顔を毛布で隠す彼女を見て俺を睨みつけた。
「サンジくん…あなたまさか」
ちょっと待ってくれ、誤解だ。俺はまだ彼女手を出しちゃいねェ。
ん?まだってなんだ?
とりあえずみんなの誤解を解かなくてはと話をするが、チョッパーの発言でさらに状況が悪化した。こンのアホトナカイめ…。後でオロしてやる。
まァ、でも彼女から俺の匂いがするってのは中々素直に嬉しい。
心の中で密かにニヤつきながら、今度は彼女と一緒に再びみんなの誤解を解くとそのままダイニングへと向かった。最後にやってきた彼女を準備していた椅子へと誘い座らせ、飲み物はと聞いてみれば俺の予想通り紅茶を選択したもんだから自然と顔が緩んだ。紅茶を蒸らしてる間、キッチンから彼女の様子を伺うとキョロキョロと小動物みたく落ち着きがなくてまた顔が緩む。
「ところで、サーシャはこれからどうするの?」
ナミさんの言葉でさっきまで賑わっていた食卓が静かになる。温めたカップの中に紅茶を注ぎ、手に持つと空いている彼女の隣に座った。いただきますと紅茶と一口飲むと彼女は話を始めた。彼女の過去の話を。
俺はただそれを黙って聞く他なかった。
どんな話だったとしても、俺は少しでも彼女のことを知りたかったから…。
そう昨日より強く思った途端、何かが胸にすとんと落ちてきてはっきりとわかった。
俺は彼女に恋をしたんだ。