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第19章 雨音の中で[真波山岳]


きっと真波に相応しいのはあの幼馴染みの子だ。私じゃ彼に釣り合わない。
雨音に包まれながら歩く中、少しの沈黙の後真波が問いかけてきた。
「先輩ってさ、好きな人とかいるの?」
「ど、どうしたの急に」
「んー、なんとなく気になったんだ」
ここで貴方が好きですってすんなり言えたらどんなに良かっただろう。
「あー、今はいない…かな」
「へぇ」
「聞いておいて興味無さそうね!?真波の方こそどうなのよ」
「俺は居るよ。好きな人」
「え…?」
瞬間、胸がツキリと痛んだ。彼の好きな人…思い当たるのは幼馴染みのお下げの子。
(そりゃそうだよね…高校入ってから知り合った私なんかよりも身近にいて理解してくれてるあの子の方が…お似合い、だもんね…。分かってたことじゃない…)
徐々に視界が滲む。まさかこんな形でこの恋が終わりを迎えるなんて。
「その人は俺が何度アタックしても軽くあしらうし、3年の先輩たちにも可愛がられてるし、真剣な表情とか時々微笑むところとか可愛いし、誰かに取られちゃうんじゃないかって気が気じゃないんだよね」
「そ、そう…。それって身近な人…?」
「うん。なんならこうして今話して…ってなんで先輩泣きそうなの!?」
「ち、ちがうの!これは…っ!」
私が立ち止まると真波も立ち止まってくれた。しかし、零れそうになる涙を堪えようとするが逆にとめどなく溢れてしまった。
「ごめん…っ、ごめ、ね…っ」
「あー、えっとぉ…」
(ダメだ…泣くつもりなんてなかったのに…。真波を困らせて…)
ただ泣くだけで何も出来ずにいる私を暖かな温もりが包み込んだ。そして近付いた大好きな声。
「ねぇ、先輩。どうして泣いてるのか…教えてくれない、かな?」
「それ、は…」
貴方が好きだから、だなんて言えたらどんなに良かっただろうか。でもそんなの言えない。今しがた好きな人がいると聞いたばっかりだ。私が言ったところでまた困らせるだけだろう。
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