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第18章 近付いた背中(後編)[金城真護]


「あの、金城先輩」
「雪音すまなかった」
「え?」
「本当なら最後まで走りきって1位を勝ち取って伝えるつもりだったんだが、俺は途中リタイアした」
「…はい」
「それでも伝えるのは今しかないと思ったんだ」
真剣な表情になった金城先輩に私も自然と背筋が伸びた。
ドキドキと胸が大きく脈打つ。張り詰める空気、射抜くように見つめてくる金城先輩の強い瞳から目が逸らせない。
「俺は3年、残された時間は残り僅かだ。その時間を…俺は可能な限り君と共に在りたい」
「金城、先輩…」
「天霧雪音、君さえ良ければ俺の恋人になって欲しい」
鼻の奥がツンとして視界が滲む。私は夢を見ているのだろうか?
「ズルいです…」
泣き顔を見られたくなくて俯きながらやっと絞り出した声は応でも否でもない言葉。
「私、諦めようとしてたのに…っ先輩が引退して、一緒にいられる時間、少なくなるのっ、分かってたから…!それで苦しくなるなら、諦めようってっ!」
「雪音…」
「先輩はズルいです!時間をかけて、漸く決心した私の心を簡単にグラつかせて!」
あの日、金城先輩がロードで走り抜けていく姿に惹かれてからずっとずっと、想いは募り膨れ上がるばっかりで。
「願わくば、貴方の隣に肩を並べるのが私であったらって無謀な夢を抱いては、私なんかじゃ釣り合わないって気持ちを押し殺して…!」
そうしてこの想いがこれ以上大きくならないようにって必死になってたのに。
「わた、し…私、は…!」
溢れ出した思いは涙と一緒に流れ、すらすらと口から零れていった。しかし、続けようとした唇は急に動きを止めた。
「雪音もずっと己自身と戦っていたんだな…。気付いてやれなくてすまなかった」
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