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第2章 曇天のち晴天[安倍蒼世]


「……」
「……」
二人の間に暫しの沈黙が訪れる。
そして先に沈黙を破り、折れたのは雪音だった。
「…分かりました。じゃあお言葉に甘えて送ってもらいます」
「ああ」
それでいい、と続けようとした蒼世を遮り少し大きめの声でただし!と雪音が続けた。
「そのまま、今夜はウチに泊まっていってください」
「…は?」
予想だにしない雪音の申し出に、思わず素っ頓狂な返答をしてしまった。そして自然と眉間に寄るシワ。
何を言っているんだコイツは。家族がいるとはいえ、男を自宅にあげるということがどういう意味か分かっているのか?
「ダメ…ですか…?」
意を決して言った言葉だったのか、上目気味に見上げてくる雪音の頬は心なしか少し赤く色づいているようにも見える。
「…丁度いい。天火に少しばかり言いたいことがあったからな。その誘い受けよう」
「!ほ、本当に!?」
「ああ。さっさと帰るぞ」
「うん!そーちゃん!!」
(俺もコイツには随分と甘くなったものだな…)
誘いを受けてもらえたのが余程嬉しかったのか、雪音は敬語を外し昔…まだ天火と蒼世が共に切磋琢磨していた頃の呼び方に戻っていた。



帰宅すると兄弟3人が出迎えてくれる。空丸に関しては師でもある蒼世が一緒に帰ってきたことに驚きはしたものの、やはり何処か嬉しそうだった。
事情を説明すると、天火はあまりいい顔をしていなかったが渋々了承してくれた。
そして遅めの夕飯と風呂を済ませ、縁側で静かに空を見上げる雪音。
長い永い道のりだった。滋賀の空が曇り、犲の一員になり、そして両親の死後安倍蒼世専属のくの一として仕えるようになり…、目まぐるしく変化して行く日々のなか、ずっと抱えていたのは不安だった。
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