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第2章 曇天のち晴天[安倍蒼世]


長きに渡る大蛇との因縁の戦いに終止符が打たれ、世界に平穏と晴天が戻ってきた。
戦いが残した爪痕の被害は大きかったものの、それぞれが再び歩きだそうとしていた。

「蒼世様、お体に障りますよ。そろそろ休まれては如何ですか?」
「雪音か」
「…まだ大蛇から受けた怪我は完治していないのでしょう?無理はなさらないで下さい」
「そうだな。だがお前こそその義手に慣れていないだろう。人のことを言えたクチではないと思うが?」
夜、犲の隊舎の一室でそんなことを言い合う曇雪音と安倍蒼世。
大蛇との決戦で雪音は利き腕である右腕を、蒼世は右半身を負傷。雪音に関しては現代の医療技術では負傷した右腕を再び自由に動かせるように治すのは不可能で、切断を余儀なくされた。
安倍蒼世に仕えるくの一に有るまじき失態と悔いる雪音に、犲の面々は彼女に義手を提案した。
「そういえば天火の様子はどうだ」
「…それは蒼世様ご自身がその目で確かめたほうがよろしいかと」
「お前…それでも俺専属のくの一か」
「ええ。ですが、私は曇家長女であり曇天火の妹でもあります」
にっこりとそう言うと、雪音を一瞥して蒼世が溜息を吐いた。
「書類を片付けろ。帰るぞ」
「はい」
その言葉にぱっと表情を明るくした雪音。元々重要度別に分けていた書類をテキパキとまとめ、帰り支度を済ませた。
「行きましょうか」
「待て。そっちじゃないだろう」
歩き出した雪音の腕をつかみ、蒼世が眉間にシワを寄せる。
「いや、蒼世様の住居はこっちでしょう?もうこんなに暗くなってしまってますし送りますよ」
主に何かあっても大変ですしと付けたし、再び歩きだそうとするも蒼世に掴まれたままの腕によって阻まれる。
「その台詞そっくりそのまま返す。いくら俺専属のくの一とはいえ、お前は女だろう。お前の身に何かあったらどうする」
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