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第11章 不器用な優しさ[不死川実弥]


食器も洗い終わり、後片付けが済んだ頃。不死川さんから風呂あいたぞとの一言を頂いたので、私もお風呂を済ませて自室へ戻った。
(うーん、寝付けない。結局何があったのか聞き出せなかったし。はぁ…)
眠れぬ体を起こし、縁側まで移動して月を見上げる。
今夜は雲一つない夜空で、星と月が優しい光を落としていた。
この時期は夜になるとまだ肌寒く、上着を着てくればよかったと少し後悔した。
「……」
只々月を見上げ己の過去を思い出していた。
今が17歳だから、もう10年も前のことになる。
当時、私は母と弟の3人で暮らしていた。父は病気で既に他界。手縫いで巾着袋や小銭入れなどの小物を作っては町で売っていた。それなりに評判も良く、どうにか食べていけるくらいには稼いでいた。家族が襲われたのは、私が町へ行っているときだった。
夕暮れ時だった。急いで家に帰ると、薄暗い中で何かが蠢いていた。
『りょう…た…?なに、して…』
赤く染った室内。凡そ人間とは思えない唸り声。そして耳を覆いたくなるような咀嚼音。
理解が追いつかない。体が震え、声も震える。
何が起こった?家を出る前はいつもと変わらない日常だったはずだ。何時から――
私の声に振り向いた良太の顔はもう人間のソレではなかった。そう理解したあとは無我夢中で記憶は曖昧。でも、私の両手には肉を潰した感触が鮮明に残っていた。
この日、私は家族と暖かな日常を失った。

「風邪ひくぞ」
「!!」
物思いに耽っていたせいか、近くに風柱がいた事に気づかなかった。
「ぁ…すみません。今戻りま――」
「家族のことでも思い出してたのか」
「え…、………まぁ、はい」
「お前の過去は御館様から聞いてる」
そう言いながら、彼は私の隣へ腰掛けた。
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