• テキストサイズ

短・中編集

第11章 不器用な優しさ[不死川実弥]


「そう、ですか」
今更、自分を可哀想などと思いはしない。鬼になってしまったとはいえ、弟を殺したのは私だ。…私は、人殺しなのだ。
「ねぇ、不死川さん」
「んだよ」
「すぐじゃなくていい。少しずつでいいから…貴方は弟さんを大切にしてあげてくださいね」
「…俺に弟なんざいねぇ」
「いまはそれでも、いつかは和解してくれると信じてますよ」
私は弟を救えなかった。でも彼の弟はちゃんと生きてる。私がもっと早く家に帰っていれば救えたかもしれないのに。
膝の上に乗せた手を自然と固く握ったそこには、いくつかの透明な粒がポタポタと落ちた。
(あ、れ…?なんで…)
悲観しているつもりはなかった。でも今胸を刺す痛みは確かなもので。
「…泣ける時は泣いとけ。そうやってずっと押し殺したままじゃ、いつか本当に失うかもしれねぇぞ」
意外だった。まさか不死川さんがそんなことを言うとは。
「っ…ふ、う…っ…うぅ…」
彼の言葉に堰を切ったように溢れ出す涙は、これまで"私は長女だから"と必死に呑み込んできた感情を表したかのようだった。
(お前は俺とは違う。家族が死して尚、その想いは強く在り続けてる)
不器用ながらに肩と頭に回された手は、心地よい暖かさだった。



泣き疲れてそのまま眠ってしまった雪音を持て余した不死川。
苦悩の末に自室へ連れていき仕方なく添い寝という形になってしまい、翌朝赤面しながら不死川の部屋から慌てて自室へ戻っていく雪音の姿が目撃されたのはまた別のお話――。
/ 91ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp