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第6章 恋人ごっこ[常磐]


それからはひたすら周りに注意を向け、変な挙動の隊員がいないか観察をした。
そして常磐さんと雪と3人で廊下を歩いている時、私たちのものではない足音がひとつ聞こえた。
(誰か尾行してきてるな)
案の定、その足音の主は曲がり角から奇襲をしかけてきた。
「常磐さん!」
考えるよりも先に動いた体は常磐さんの前に出てその剣の一撃を受けた。胸の間あたりから下腹部までバッサリ斬られてしまう。
「っ…!」
「雪音!?このっ…!」
雪がすぐさま動いてくれて犯人は無事拘束され連れていかれた。傷がズキズキと痛む。
「雪音!しっかりしろ!雪音!!」
「とき…さん…ごめ…なさ、い…」
どうにかそれだけ言って私の意識は闇に落ちた。


騒ぎを聞き付け、だんだんと集まってきた隊員達に声を張り上げて指示を出す。
「何をしている!すぐ医療班を呼べ!!」
慌てたように返事をして踵を返して走っていく隊員を横目に、常磐は雪音に視線を戻した。
(くそっ…俺の所為だ!)
雪もいた事だ。まさかあの状況で直接仕掛けてくる可能性は低いと判断して少なからず油断していた。
今尚流れ続ける雪音の血液は血溜まりをどんどんと広げていく。眠るように閉じられた瞼からは一筋の涙腺が出来ており、彼女の顔からは血の気が次第に失せてきているのも見て取れた。
(医療班はまだなのか!?はやくしないと此奴が――)
そこではたと気づいた。俺は何故こんなにも焦っている?部下が死にそうになっているから?否、それもあるだろうがそれよりももっと強い感情がある。
刹那、脳裏に過ったのは仮初の恋人として過ごし始めて知った雪音の純粋な笑顔だった。
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