第1章 ある夏の日【跡部甘夢】
「け、景吾!?ちょっと待ってまだ準備が…!」
「携帯鳴らしても出ないから来てやったんだろうが。」
「携帯…?」
はっ、として手元にあった携帯を確認する。
画面をつけると景吾からの着信だらけだ。
どうやらマナーモードのまま放置してしまっていたらしい。
「ほら、行くぞ。」
私の腕を掴み、ぐいっと引っ張られる。
何とかそこにあった鞄と携帯を手に取り、力のままに部屋から連れ出される。
あらあら、と口元に手を当てて笑っている場合じゃないのよお母様。
玄関まで見事に引きずり出され、靴を履くように促された。
そんなに焦らなくても良いじゃない…。
「二人とも気をつけてね。
景吾くん、芽衣をよろしくね。」
「はい。お邪魔しました。」
彼は一礼して、私に手を差し出す。
彼の手を掴み、行ってきます、とお母さんの顔を見ると、何やらとても楽しそうだ。
どうやらこの場に私の味方はいないらしい。