第9章 伝えたい想い
―明治二年、五月十日。
函館、五稜郭。
明日、新政府軍の総攻撃がはじまる。
これがきっと、最後の戦いになるだろう。
そうわかっていながらも、俺の心はずいぶんと落ち着いていて穏やかなものだった。
寒いこの地で、ようやく花開いた桜を窓越しに眺めて。
ふと、一年前のことを思い出した。
「…そうか…明日はゆきの命日だったな…」
あれから一年。
たくさんの戦場を駆け、ここまできた。
その間も、荷物は増えるばかりで。
決して軽くはならなかったけれど、それでもあの燻っていた時より気持ちは軽く、穏やかだった。
――コンコン。
唐突にノックの音がして、入室を許可すると何やら難しい顔をした島田が入ってきた。
「…おう、どうした」
「…副長…それが、その…」
珍しく言いよどむ島田に首をかしげると、彼は一通の手紙を差し出した。
「……この手紙が、副長あてに…」
躊躇うように差し出された手紙を受け取って、送り主をみてみると
「……!!」
そこには、
一年前に死んだはずの、幼馴染の名があった…。