第8章 じゃあ、またな
―慶応三年 六月。
怪我の癒えた俺は、再び近藤さんの墓前に立っていた。
「なぁ近藤さん。どうやら総司のやつも、そっちに逝ったらしい…よかったな、総司。近藤さんも源さんも、ゆきもいる…一人で病と戦うこともねぇ…もう、淋しくねぇだろ?しばらく皆で仲良くやっててくれ」
俺はまだ、そっちに逝けそうにないから。
俺には、近藤さんに託された熱い思いと。
ゆきとの、約束があるから。
「もうしばらく、俺はこっちで足掻いてみるぜ」
この明らかに不利な状況の中で、どこまでできるかわからないけれど。
それでも俺は、戦い続けよう。
最期まで、新選組と共に。
「…気が付いたら、随分でかいもんになっちまったな」
はじまりは、ゆきを泣かせたくなかった。
次に、惚れ込んだ親友のがき大将を、本物の大将にしてやりたいと思った。
―そしてずっと、武士でありたかった。
その想いは今、『新選組』という大きな存在になっていた。
「俺たちの夢がつくったもんだ…最期まで、俺たちが背負うのが筋ってもんだよな」
ひどく重くて、悲しみもたくさんつまっている荷物だけど。
それを覆うほどの気持ちが、
想いが、あるから。
「…最期まで、俺は新選組と共に在るよ…」
親友の墓前で、散っていった仲間たちに、誓いを…。
「そうしたら、笑って…お前との約束を果たしにいくさ」
愛しい君に、誓いを…。
「じゃあ、またな」
この後、歳三は新選組と共に北へと転戦していく。
桜咲く春を追い掛けるように、
ひたすら北へ…。
…桜花恋語 八話完。