第10章 幸せな夢~エピローグ~
「……歳さん…?」
やわらかな声が、耳に落ちて。
腕の中のぬくもりが、そっと動いて、俺の頬に触れた。
「…哀しい夢、みたの…?」
細い指が、いつの間にか流れていた涙を、そっとぬぐって。
心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。
「…いや…よく覚えていねぇんだが…
―幸せな、夢だった…」
「それなら、よかった」
ふふ、と微笑む妻の笑みはまるで、春のひだまりのようで。
その笑顔が、俺は大好きだ。
「…夢の内容はよく覚えちゃいないんだが…起きたら、お前に伝えようと思ってたことがある」
「…?」
何?と首をかしげた彼女の唇を、そっとふさいで。
あたたかなぬくもりを、抱きしめた。
「…愛してる」
ずっとずっと前から、君を愛してる。
「…私もだよ、歳さん」
やわらかに微笑む彼女に、笑みを返して。
変わらぬ想いを唇にのせて、
もう一度深く、口付けた…。
…桜花恋語 終。