第8章 じゃあ、またな
悲しくは、なかった。
ただただ、虚しくなった。
自分の中から何かが抜け落ちたような、そんな気がして。
そのすぐあとに、ゆきとの思い出が鮮やかに甦って。
数年振りとはいえ、つい二ヶ月ほど前に会ったばかりなのに。
―ひどく、恋しくなった。
もう会えないと思えば思うほど、恋しくなって。
ゆきの笑顔を、ぬくもりを。
必死で、思いだした。
「…なんでお前まで、逝っちまうんだよ…」
ぽつり、と呟いて手紙へと視線を戻せば、彼女の命を奪ったのは総司と同じ肺の病だと記されていた。
今年に入ってから病にかかり、進行がはやく、つい先日の五月十一日に亡くなったとのことだった。
ふと、二ヶ月前のことを思い出す。
『…少し痩せただろう?』
『私は家事に育児に大忙しだからね。歳さんこそ、痩せたでしょう?…また、戦なんでしょう?大丈夫…?』
病にかかっているそぶりも見せずに、微笑んでいて。
おまけに人の心配までしていた。
…俺は一体、何をしている?
彼女は自らの病を知りながらも、微笑んで俺の背を押してくれたというのに。
俺は一体、ここで何をしているんだ。
近藤さんの死を言い訳にして、歩みを止めていただけじゃないか。
『私はいつだって、貴方の背を押せる存在でありたい』
そう言っていたゆきは、まさにその通りに生きたというのに。
「…お前は本当に、いつだって俺の背を押してくれるんだな…」
ぽたり、と一粒の涙と共に、久しぶりの笑みがこぼれた。