第5章 誘い
地下に降りると、ぼんやりとした照明に灯された部屋があった。
目立ったものは特になるく、ただ奥に繋がる扉があった。
その奥はワインの倉庫になっている。
部屋では木製の樽を重ねた山が連なり、酸味のある芳香が漂う。
ワインは熱に弱いため設置されている照明は先ほどの部屋と同様に薄暗いにもかかわらず、目を細めてしまうほどの眩しい閃光が部屋を照らしている。
その光を発するものは金属製の貨物用コンテナを乗せたトラックだった。
トラックの前には怪しげなマスクとマントを羽織った長髪の男と背広姿で銃を構えた男がいた。
「早く出しなさい」
マント男がトラックの運転手に指示を出す。
トラックはエンジンをふかして緩やかに動き出す。
逃すかと言わんばかりに背広姿の男が発砲する。
しかし、そのトラックに向けて放たれた銃弾はマント男の腕によって止められた。
常人であればマント男はかなりの負傷をしているはずであるにも関わらず、傷は愚か当たった形跡すら見つからない。
人間の成せる技ではない。
つまり、人間ではないのだ。
否、恐らくは人間ではなくなった者。
それが事実であれば、その者が守ったトラックには特別大事なモノが乗せられているに違いない。
私はマント男の命令で動き始めたトラックを追うことに決めた。
推測が正しければコンテナの中にはまだ眠り姫のままのディーヴァがいるからだ。