第4章 沖縄
香里が帰った後、サヤが過ごしていた家を調べてみた。
玄関は鍵がかかっていたが、裏口は何故か開いていた。
「入ってみるか?」
「もちろん」
答えは決まっているのに、わざとらしくレイが聞いてくる。
そして、私の返答を聞くと、知っていたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
ギィっと古めかしい音を鳴らす扉の向こうは埃だらけだった。
久しぶりに入った外気で埃が舞う。
錆やカビの独特な臭いも微かにする。
不意に壁に掛けてあるコルクボードに目が止まった。
沢山の写真が貼られており、その中の一枚が一際目を惹くものだった。
陽気で包容力がありそうなおじさんとツリ目の少年、栗色の髪に可愛い少年。
そして、その中心にいる短髪のサヤ。
4人全員が凄く良い笑顔を浮かべている。
家族という言葉がぴったりはまる写真である。
「レイ、私はこんな風に笑えてる?」
レイが静かに首を横に振る。
遠慮はないが、正直でわかりやすい。
「だよね。これからも無理だと思う…。でも、いつかちゃんと笑えたら…その顔で真っ先にお礼を言うからね。だから、それまで側にいて。私は弱いからレイの力が必要なんだ」
私が笑える時…それはレイが自由になれる時。
私という呪縛から解放される時。
「礼なんて意味ない。俺はナルの側にいる。俺が決めたことだから、意志は変わらない」
レイは優しすぎる。
結末が怖くなるくらいに…。
しかし、レイも自由を望むはずだ。
私が彼の時間を止め、自由を…人間としての生活を奪ったのだから。
「ありがとう。ついでだから服、借りようか」
「俺はこれで大丈夫だ。ナルは動きにくいだろうから変えた方がいい」
私はその言葉が嬉しかった。
レイが覚えてるのかは定かではないが…その服は私にとって思い出の深いものだから、それを着ていてくれることが嬉しいと感じた。