rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第32章 wrong step on the stairs6
名無しにとってホテルのベッドというのは、別に寝慣れない場所というわけでもなかった。
ここ最近は元々寝慣れないところで意識を預けていたし、何より体力面を思えば、無理やり慣れさせるべきでもあった。
そのおかげか、いまではぐっすりと眠れていた。
複雑な気持ちを抱えたまま、シルバーの腕枕に頭を預けながら――。
「んん……」
寝息を吐きつつ、あとは目を開ければ起床と言えるような意識のなか、名無しが覚えたのは後頭部の違和感だった。
シルバーから齎されるいつもの感触がなく、ふかふかとした大きな枕が彼女の頭を包み込んでいるのは、彼が同じベッドに既にいないことを意味していた。
「……?」
シルバーが傍にいない嬉しさに混ざり、いないという事実に寂しさを覚える。
情が移って絆されていたから、きっとそんな頭の弱い思考に走っているのだろう……寝起きというのも相まってと言葉を付け加えればなおさらだった。
名無しは起床し、そして部屋を一度見渡した。
それと同時に響いたのは、外側からカードキーを差し込まれ、扉が開いた音。
感じた気配は、ひとつではなかった。