rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第32章 wrong step on the stairs6
「っ……」
「ああ……だからあの時オレが出したパスがよ……、と……なんだ起きたのかよ」
「…あ……」
ドアが開いた途端、名無しの耳に入ったのはシルバーの声だった。
少し掠れているように感じたのは、早朝、彼もまた起きたばかりだったのだろうということ。
一緒に何か香ばしい香りがして、それは、シルバーがベッドに近付くごとに強くなった。
チェーン店から持ち帰ったコーヒーだとすぐに分かったのは、名無しもよく飲んでいたからだった。
「飲むだろ……おまえ好きだよな?」
「ッ……あ…」
「あ、じゃねえよ……折角買って来てやったんだ。わざわざ?このオレ様が……」
その日最初に見たシルバーの姿は、相変わらず、としか喩えようもないほど眩しく見えた。
存在が尊くて……とか、勿論そんな甘ったるい理由ではない。
単純にこの男は疲れを知らないのかと疑問を呈したいほど、疲労感はおろか、まだどこか吐き出したいものを抱え込んでいるように窺えたのだ。
あんなに……あんなに昨夜、外は明るくなっているかもしれない、そんな時間まで抱かれていたというのに。