第10章 嵐の文化祭 その3
わからない、わからない。さっき目の前で起きていたことは何だったの?
さっき会った女の人が宗介さんの首に抱きついていて、キスしようとしてた。私が宗介さんとキスしていた場所で。
人の間をすり抜けて、階段を駆け降りて、走って走って・・・息が苦しい。でも、苦しくても走らないと。もうこんな場所にいたくない。何も見たくない。
「っきゃ!・・・・・・いった・・・・・・」
正門の手前辺りでかなり派手に転んでしまった。バッグの中身をぶちまけてしまって、痛い膝をひきずるようにして、拾っていく。
「っ・・・こんなの、作ってこなきゃよかった・・・」
宗介さんのために作ってきた差し入れ。その包みを拾おうとした時、涙が溢れる。
こんなの作らなければ、あの後、戻ることになんてならなかった。いや、違う。そもそも私が忘れないでちゃんと宗介さんに渡せばよかったんだ。
・・・違う。どっちにしても、結局宗介さんはあの女の人と会ってた。抱きつかれて、キスしようとして・・・
「っっ・・・う〜・・・っく・・・ひっく・・・」
涙が次から次に溢れてくる。もう文化祭も始まる。行き交う人がみんな、私を見ている。だけど、もう膝も痛いし、身体に力が入らない。
どうしよう、もうやだ。もう宗介さんに会いたくない。顔を見たくない・・・ああ、でもいいんだ。もうこれで終わりなんだから・・・でもどうしよう。私が水泳部にいる限りは宗介さんと顔を合わせなきゃいけない。そんなのやだ。大好きな水泳部だけど、もう辞めるしかないのかも・・・
頭の中がぐちゃぐちゃでただもう泣き続けていた。そうしたら・・・
「ヒカリ!!」
今、一番聞きたくない声が私に近付いてきた。
やだ、もうやだ。痛む膝をぐっと我慢して立ち上がる。再び走りだそうとしたところで、ぐっと腕を掴まれた。
「ヒカリ!待てって!」
「っっ!やだ!離して!!」
振り解こうとしても、私の力では宗介さんの腕から逃げることはできなかった。
「ヒカリ・・・話を聞いてくれ」
「やだ・・・ひっく・・・聞きたくない・・・」
なんでそんな声で私の名前を呼ぶの?宗介さんの低く懇願するような声に、さらに涙が溢れる。