第35章 ジンベエザメの試練 番外編
何事かと思ったが、ヒカリの父親はにこにこと嬉しそうにしながら俺を見上げてそう言った。
なんだ、改めて礼を言いに来てくれただけか、本当にいい親父さんだな・・・なんて思っていたら・・・・・・
「お母さんはああ言ってたけど・・・僕はまだ孫はいらないし、そもそもヒカリを嫁にやる気はないから・・・宗介くん、よろしく頼むね?」
「っっっ・・・・・・!!!」
伸びてきた親父さんの手が俺の手を掴む。そして、小柄な親父さんからは信じられないぐらいの強い力で、それこそ瞬間的に手が砕けちまうんじゃないかってぐらいの力で、ぎゅっと俺の手が握られた。
「・・・それじゃあ、気を付けて。またいつでも来てね」
「・・・・・・」
もう一度にっこりと微笑むとヒカリの父親はくるりと向きを変え、去っていった。
「宗介さん!もう!早く・・・って、どうしたんですか?お父さんと何か話してたんですか?」
先に行ってしまっていたヒカリが頬を膨らませながら俺のすぐ側まで戻ってくる。
「あ、いや・・・なんでもねえ。その・・・また・・・来てくれって」
「ああ、なーんだ。ふふふ、お父さん、宗介さんのことホントに気に入ったみたい!よかったぁ!」
無邪気に笑うヒカリとは対照的に、俺は昨日からの色々な疲労が一気にのしかかってくるような気がしていた。
「・・・・・・ああ、そうだな・・・」
・・・・・・凛。殴られはしなかったけど、やっぱり父親は父親だったよ・・・
まだひりひりする手の平を見つめて、心からそう思った。