第9章 嵐の文化祭 その2
「・・・そんなにわかりやすいか?俺」
ヒカリとわかれた後、俺はトイレに入り、鏡で自分の顔を確認していた。
凛や愛が言うには、ヒカリと会ってきた後の俺の顔は相当にやついていて、機嫌がいいのが丸わかりらしい。そんなことねえだろ、と最初は思っていたが、最近は少し自信がなくなってきた。
さっきのヒカリとのことを思い出す。
いっぱいいっぱいになって必死に俺からそらしていた真っ赤な顔とか、抱きしめた時のあたたかさとか、相変わらず拙いけれど一生懸命俺に応えようとするキスとか。最後にやっと見せてくれた笑顔、とか。
・・・ああ、ダメだ。思い出しただけで頬が緩む。バシバシと軽く頬を叩いてみるが、あまり変わってない気がする。
「・・・まあ、しょうがねえか」
そう呟いてトイレを後にする。どうせヒカリと会ってきたことは知られてるわけだし、あいつが・・・ヒカリがあんななのが悪い。あんなの、にやけるに決まってるだろ、と思う。
あんなガキっぽくってちっこい奴に、振り回されて正直戸惑うこともある。だけど俺はあいつがいいんだから、もうどうしようもない。
あいつ、オムライスどんな顔して食うんだろうな・・・
そう思ってまた頬が緩みかけた時だった。
「あ!宗介?!」
聞き覚えのある声がして、俺は反射的に後ろを振り返った。
「・・・お、まえ・・・」
「やっぱり宗介だった!やっほー!久しぶり!」
「なんで、こんなところに・・・」
「大学の友達とたまたま旅行に来ててね。それで、そういえばここ宗介の地元じゃん!って思い出したんだ」
「そ、うか・・・」
「確か鮫柄行くって言ってた気がしてさ、調べたら文化祭やってるみたいだし、久しぶりに宗介に会えないかなーって思って来たら、会えちゃったってわけ!」
「・・・・・・」
もう二度と会うことはないと思っていた人間が目の前に現れて、うまく言葉が出てこない。もう廊下にはかなりの人が行き交っていて、ちらっとこちらに目をやってきたりする。
「宗介、相変わらず無口だねー、わ!何?!」
「・・・いいから、お前、とりあえずこっち来い」
そいつの腕を掴むと、俺は廊下から少し引っ込んだところまで連れてきた。俺にとっては皮肉なことに、そこはさっきヒカリと話をしていた場所だった。