第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「そうか・・・そうなんだね・・・・・・」
「はい」
俺が全て話し終えると、ヒカリの父親はぽつりとそう言った。
長々と話しちまったが、結局は進路は何も決まっていない、いや決められていないってことだ。そんな奴が娘の彼氏だなんて父親なら不安に思うに違いない。何か考えるように黙ってしまったヒカリの父親。沈黙が痛い。俺もこれ以上何を言ったらいいかわからなくて、必死に言葉を探していた時だった。
「ありがとう、宗介くん」
「へ・・・」
「つらい話もあったと思うけど、全部話してくれてありがとう」
暗い部屋の中、はっきりとは見えなかったけど俺には親父さんが『ありがとう』と言って笑ってくれたのがわかった。
・・・あの時もそうだった。長い話を終えた後にヒカリは俺に『ありがとう』という言葉と笑顔をくれたんだった。
「宗介くんの人生なんだからゆっくり時間をかけて決めればいいと思う。それに・・・仮に今決めたとしても、それが全てじゃない。宗介くんの意思でいつだって変えていいんだから・・・ね?」
「っ・・・はい・・・」
・・・ああ、本当にこの人はヒカリの父親なんだ。はっきりと今それを実感した。何も不安を感じることなんかなかった。やっぱり俺は今日ヒカリんちに来てよかっ・・・・・・
「それで・・・もうひとつ聞きたいんだけど」
「へ?・・・あ、はい」
「僕にとってはこっちの方が本題と言ってもいいんだけど・・・宗介くんはヒカリのどこをそんなに気に入ってくれたのかな?」
今までの親父さんの穏やかな声が一変するのがわかった。
「・・・・・・」
「見たところ、宗介くんは背も高くてカッコいいし、すごくモテるんじゃないかな。それに比べてヒカリは・・・まあ親の僕が言うのもなんだけど、未だに小学生に間違われたりするし、中身も子供っぽい。宗介くん・・・ヒカリのどこがそんなによかったの?」
部屋の温度が一気に氷点下まで下がってくような思いがした。穏やかに微笑んだまま、口調もゆったりしたままだったけど、親父さんの言葉に明らかに刺が含まれるのがはっきりと感じられた。