第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「宗介くん、遅かったね。何かあった?」
「あ、いや・・・その・・・喉、乾いたんで、水貰ってました」
あの後、どうにかして自分を落ち着かせた俺は、やっとの思いで親父さんのいる部屋へと向かった。だが、実際は結構な時間が経ってしまっていたため、案の定親父さんからは質問が飛んでくる。
「・・・そう。それじゃあ遅いしもう寝ようか。電気消すね」
「はい」
・・・よかった。本当のことなんて言えるわけないから咄嗟にごまかしたけど、なんとかなったみたいだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
暗くなった部屋の中、用意してくれた布団に潜り込む。挨拶をしてとりあえず目を閉じる。
・・・・・・まあ当然だが眠れるわけなんてない。少し息を潜めるようにして隣に寝てる親父さんの気配を伺う。
「・・・宗介くん。もう寝ちゃったかな?」
『来た』と思った。だがここまで来たらもう怯む訳にはいかない。
「いえ、まだ起きてます」
「もしよかったら少し話してもいいかな?」
「はい」
「宗介くんは確か3年生だったよね。卒業したらどうするの?」
・・・これも俺が3年なら当然来ると予想できる質問だ。心の中で大きく深呼吸した後、俺は続ける。
「まだ・・・はっきりとは決まってません。父の仕事を手伝おうとは思ってるんですが・・・あ、っと俺、ずっと水泳をやってたんですけど・・・」
「うん。それならヒカリから聞いてるよ。宗介くんの泳ぎはとにかくすごいんだって、自分のことみたいに自慢してた」
「そ、そうですか・・・っと、それで俺・・・・・・」
いきなりヒカリの名前が出てきて驚いたが、俺はそのまま続けることにした。
最初は適当にぼかして答えるつもりだった。でも、さっき見た写真を思い出したら、これまで一生懸命ヒカリを育ててくれた親父さんに対して不誠実な気がして、結果として俺は全部を話してしまっていた。
凛のこと、肩のこと、諦めた夢のこと、やっと見つけられた大切な仲間と叶えられた夢のこと、全部全部話した。かなり長い話だったし、親父さんには退屈な話だったかもしれない。それでも親父さんは、ヒカリがあの時そうしてくれたみたいに、ただ黙って俺の方に身体を向けて話を聞いてくれていた。