第35章 ジンベエザメの試練 番外編
ふたつしか寝れる部屋がなかったら、この部屋割りになるのは当然だが、それでもやっぱ俺に何かしら釘を指すためにこうしたんだろうと予想がつく。
穏やかそうな親父さんだけど、それでもやっぱ一人娘の彼氏は気に食わねえんだろうな、なんて思う。
でも・・・ぶん殴られることだって覚悟してきたはずだ。こんなので怖気づくな俺、と自分を奮い立たせる。
「・・・よし」
気合を入れなおして、寝室に向かおうとした時だった。
「・・・宗介さんっ」
「ヒカリ?・・・どうした?喉でも乾いたのか?」
とんとんと小さな音をたてて、ヒカリが階段から降りて来ていた。足を止めてヒカリが俺のすぐ近くに来るのを待つ。
「ううん、違います。あの・・・宗介さんの顔、寝る前に見たいなって思って、ふふふ」
「っ・・・」
薄暗い廊下だけど、ヒカリがふわっと笑うのがわかった。それだけで、小さく鼓動が跳ねる。
「えっと・・・今日、ごめんなさい。なんか泊まることになっちゃって・・・」
「ああ・・・別に構わねえよ。俺こそ迷惑じゃねえかな」
「大丈夫ですよ!お父さんもお母さんも宗介さんのこと、すごく気に入ってるし」
笑顔で答えるヒカリに対して、お袋さんはそうかもしれないけど、親父さんはどうだろうな・・・なんて心の中で思う。
「・・・まあ、俺もう行くわ。おやすみ」
「あ!ちょ、ちょっと待って下さい!」
まだヒカリと話してたい気持ちもあるが、親父さんも待ってるし早めに切り上げたほうがいいだろう。そう思って歩き出そうとすると、ヒカリが俺のパジャマを掴んだ。
「・・・んだよ、どうした?」
「あの・・・えっと・・・ああ、もう!今だけ身長伸びたらいいのに!」
よくわからないが、ヒカリは一人でなにかぶつぶつ言いながら怒っている。どうしたんだと思い少し顔を近づける。
「ホント、どうした?お前」
「あ・・・も、もうちょっとこっち・・・」
「は?」
「いいから!か、屈んで下さい・・・」
「こうか?・・・・・・んっ」
わけがわからないまま、ヒカリの言う通りに背を屈める。すると、急にヒカリの顔がすぐ近くに来て、気付いたら唇にあたたかく柔らかいものが触れていた。