第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「ほらこっち。お風呂はね、ここを出て・・・ああ、あとトイレの場所はね・・・」
・・・よかった。ヒカリの母親は何も気付かなかったみたいだ。
立ち上がって風呂に向かおうとすると、ヒカリが頬を赤くして抗議するような視線を俺に向けていた。さっきの件は俺がうっかりしてたんだから、ヒカリが怒るのも無理はない。だが親父さんも側にいるし、今は何も話さないほうがいいだろう。視線だけで『悪い』と伝え、キッチンを後にした。
「宗介くん、本当に冷たいお茶だけでいいの?」
「はい、ありがとうございます」
あの後、風呂に入らせてもらって、今俺はリビングのソファーに座っている。コーラでベタベタしてた頭とかもすっきりしたし、苦しかった腹も少しだけ楽になった。
「デザートとか・・・」
「いえ!!本当に大丈夫なんで!」
「そう・・・遠慮しなくていいのよ?」
俺が風呂入ってる間に片付けも終わってたし、ヒカリの父親は今、俺の服をコインランドリーに持ってってくれてる。パジャマも貸してもらったし、飲み物出してもらってくつろがしてもらって・・・気さくだし本当にいい両親だと思うが食う量に関してだけは本当に勘弁してくれと思う。俺もかなり食う方だと思うけど、なんつーか次元が違う。
・・・やっぱり長島家、すげえ。
・・・とりあえず次、ヒカリの親に会うのはいつになるかわかんねえけど、飯時に来るのだけはやめよう。
そんなことをぼんやり考えて、ふと外泊届けを出してないことに気付く。元々泊まる気なんてなかったから当たり前と言えば当たり前だが。
俺と一緒に明日帰ることになってたから凛はまだ寮にいる。電話して頼もうと携帯を取り出したが、つい先日おんなじような場面で凛にからかわれたことを思い出し、メールに切り替える。それでも凛が携帯の画面を見て笑っている姿が想像できたが、直接何か言われるよりはましだ。
「・・・はぁ」
メールを送り終えて、ひとつ息を吐く。ヒカリの母親は用事があるのかさっきリビングから出て行ったし、ヒカリは風呂に入ってる。何て言うか、手持ち無沙汰の状態だ。勝手にテレビつけるわけにもいかねえし、やることがない。まあ親父さんやお袋さんがここにいても話すことに困るんだけどな・・・