第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「お、おう・・・俺もういいからこれお前が食え」
「「えぇぇ?!宗介くん、もう食べないの?!」」
ヒカリの方に皿を差し出そうとすると、親父さんとお袋さんの声が重なった。
「あ、は、はい・・・もう腹、苦しくって・・・」
「「えぇ、そうなの・・・」」
また重なった。仲いいな・・・じゃねえ!親父さんとお袋さんの皿をよくよく見れば、そこにはヒカリの皿以上に肉と野菜がこんもりと盛られていた。
「「「美味しいのに・・・・・・」」」
今度は長島家全員の声が重なった。そして、3人が3人ともしゅんとした悲しそうな目をして俺を見てる。
・・・すっかり忘れてた。俺は、まるで叱られた子犬みたいな、こんなヒカリの表情にものすごく弱いということを。
・・・ヒカリは親父さんとお袋さんによく似てる。と言うことは、つまり・・・
「い、いただきます・・・・・・」
「・・・ごちそう・・・さま、でした・・・・・・」
・・・もう食えねえ。もう食わねえ。しばらく肉も鉄板も見たくねえ。今まで生きてきた中で一番食ったんじゃねえかってほどに俺は食った。
「ごちそうさまでした!あー、美味しかった!」
「やっぱりここのお肉、美味しいわね。でもちょっと量が足りなかったかしら?」
「じゃあ今度やるときはもっと買ってこようか」
・・・いやいやいやいや。ありえねえ。なんでみんな余裕の表情なんだ?どう見たって俺よりも食ってたはずなのに。
つーかヒカリの奴、ここ最近更に食欲が増してねえか?ほんっとになんでこんだけ食ってちっこいままなんだよ!!
・・・いやもういい。とにかく苦しい。片付けとか、手伝うべきなんだろうが身体が動かねえ。どうしたもんか・・・
「宗介くん、今お茶淹れてくるわね」
「あ、いや、お構いなく・・・」
そう言って、ヒカリの母親が席を立とうとする。気持ちはありがたいが、今は一滴の水も受け入れられる気がしない。
「あ、はいはい!私、宗介さんのためにいい物用意してます!今、持ってきますね」
「いや、ヒカリ、俺もういいから」
いそいそと冷蔵庫の方へ向かうヒカリを慌てて引き止める。