第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「なあ、ヒカリ」
「はい?」
「・・・なんで俺、長島家で一緒に飯食うことになってんだ?」
親父さんもお袋さんもすっかり俺が飯を食いに来た前提で話を進めている。いや、時間的に夕方だしわからなくもないんだが、俺は親に会いたいってヒカリに言っただけなんだが・・・
「え?だって宗介さん、さっき電話でうちに来たいって言ったじゃないですか」
「まあ・・・そうだな」
「それで、お父さんとお母さんに会いたいって言ってましたよね?」
「・・・ああ」
・・・これはきっと気のせいじゃない。ものすごく嫌な予感がする。
「だいぶ前だけど、宗介さん、うちの食事風景見たいって言ってましたよね?だからお父さんとお母さんとご飯食べたいのかなーって思って、そう伝えたんですけど・・・」
「ああ・・・そんなこと言ったな、俺・・・・・・」
いつだったろうか。多分まだ付き合う前だったと思う。確かに俺は長島家の食事風景を見てみたい、って言った・・・・・・言ったけどよ!だからってなんで『親父さんとお袋さんに会いたい』が『一緒に飯食いたい』になるんだよ!!!
・・・・・・いや。これは恐らく俺が全面的に悪い。やっぱりなんとなく照れくさくて、はっきりと『親に挨拶したい』とは言えなかったんだ。それでも、なんとなく雰囲気で察してくれると思ってた。だけど俺は大事なことを忘れてた。
こいつが・・・・・・ヒカリが、信じられないぐらいものすごく鈍いということを。
「・・・あ!!もしかして、鉄板焼き嫌いでした?」
「いや・・・そういうことじゃねえよ。そういうことじゃ・・・」
俺の隣でまたしても盛大な勘違いをしているヒカリ。その顔を見ていたら、自分が考えてるゴチャゴチャしたことがバカらしくなってきた。
挨拶って言っても、んな改まった感じにされたら俺もどうしたらいいかわかんなくなっちまっただろうし、一緒にワイワイ飯を食うのも悪くないかもしれない。ヒカリが家でどんな風なのかとか、興味あるし。
「宗介さん?ホント、どうかしました?」
「・・・はっ!いや、なんでもねえ。早く行こうぜ。親父さんとお袋さん待たせたら悪いしな」
「はい!」
少し笑ってそう言うと、ヒカリも笑って俺に答えてくれた。