第33章 ふたりの、初めて。 おまけ
その2 『25日 朝』
「ん・・・」
カーテンの隙間から射し込む光で目を覚ました。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。すぐ隣でヒカリが静かな寝息をたてていた。少し笑って、その柔らかな前髪をかき分けて額に口付ける。
「う・・・ん・・・」
くすぐったそうに顔を動かすヒカリ。だけど目を覚ますことはなかった。
軽く頭を撫でてやってから、身体を起こす。小さなベッドに二人で寝ていたから当然寝返りも打てない。少し痛む肩を宥めるように回して、調子を整える。だけどそれは決して嫌な痛みではなかった。
それに・・・痛みだけで言ったら、きっとヒカリの方が俺の何倍も痛かったはず。
もう一度、すぐ側に寝ているヒカリに目をやる。
余程疲れているのか、全く起きる気配がない。
まあ、疲れさせたのは俺・・・なんだけど。
正直、俺は昨日の夜はそのまま眠るつもりだった。ヒカリも昨日が初めてだったし、もうすでに散々無理させた後だったし。実際、俺もヒカリを抱きしめてたら心地よくて眠っちまいそうだったし。
それなのに、ヒカリにキスをねだられて、それに応えて、俺にだったら壊されてもいい、なんて言われて・・・そうしたら止まらなくなった。用意していた避妊具が底をつかなかったら、本当にヒカリをぶっ壊すまで抱いてしまっていたかもしれない。
食い物の夢でもみてるのかふにゃっとした幸せそうな表情とか、俺の半分ぐらいしかない細い肩幅とか、俺の手にすっぽり収まっちまうちっこい手とか・・・
「ホント、ガキみてえなのに・・・」
いつだって俺はこいつに振り回されてる気がする。悔しくてヒカリの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。起きていれば顔を真っ赤にさせて怒るところだが、ヒカリは少し顔をしかめただけだった。
自然と昨日のことが、俺の脳裏に蘇ってくる。
蕩けそうに柔らかい肌、俺に必死にしがみついてくる華奢な腕、ほんの少し触れただけで漏れる甘ったるい声・・・
それに・・・今まで自分の名前を特別に思ったことはなかったけど、ヒカリに『宗介』、そう呼ばれるだけで心が震えた。大げさだけど、生まれてきてよかった、ヒカリに出会えてよかった、そう思えた。