第32章 ふたりの、初めて。 その9
「怜ちゃん・・・」
「百くん・・・」
「「あっちで食べようね」」
渚先輩と似鳥さんは、その細身の身体からは想像できないような力で怜先輩と百太郎くんをそれぞれひきずっていってしまった。
「はぁぁ〜〜・・・・」
首元に注がれていた視線がようやくなくなって、思わず大きく息を吐いてしまう。
そして、なんとなく部屋の中がホッとした雰囲気になって、少しするとまたさっきまでの賑やかな感じに戻っていく。
・・・ああ、よかった。これからはちゃんと事前に鏡で確認して・・・・・・じゃなくって!!
全部宗介さんのせいなんだから!さっきだって助けてくれなかったし・・・そんな思いを込めて、宗介さんを少し睨むと、ばっちり宗介さんと目が合った。
『ばか』
『わるい』
口だけを動かして宗介さんと会話。
・・・もう謝ったって許してあげない。こんな見えるところにキスマークつけるなんてひどいと思う。もう知らない、とばかりに宗介さんからぷいと視線を逸らす。
・・・・・・でも。
でも・・・腰に残る微かな痛みを感じながら一人思う。
昨日、私、すごく幸せだった。色々考えてあたふたして、泣いてしまったりもしたけど、やっと大好きな宗介さんと結ばれることができた。
今までの人生で一番じゃないかってぐらいドキドキして、怖かったし、恥ずかしかったけど、それも全部宗介さんは受けとめてくれた。そして、たくさんの『好き』をくれた。
今までだってこれ以上ないぐらいに大好きだったのに、もっともっと大好きが溢れてる。
だからきっと、昨日は私にとって一生忘れられない日になる。身体に残る痛みが幸せの証なら、このキスマークだってそう。宗介さんが私にくれた証。