第32章 ふたりの、初めて。 その9
百太郎くんが指で示してくれる場所は、首の付け根に近い部分。顔を動かしてみるけれど、自分では確認することができなかった。マフラーをしていれば隠してくれたのに、家の中だから当然マフラーは外してしまっている。
「虫にでも刺されたのかなあ」
「う、うん!そ、そうじゃないかなあ!なんか痒い気がするし!!」
「おかしいですね。今の時期蚊はいないはずですが・・・」
そうこうしている内に、私の隣にいた怜先輩までもが私の首元を覗きこんでくる。
「さ、寒さに強い蚊がいたんですよ!きっと!きっと・・・そう、です!!」
百太郎くんと怜先輩の視線から逃げるように、他のみんながいる方を見る。
「蚊・・・う、うん、俺も蚊だと思うよ・・・」
「・・・蚊だな」
「め、珍しいねー・・・」
「そ、そうだな。珍しい蚊がいたもんだ・・・」
ちなみにこれは真琴先輩、遙先輩、江先輩、凛さんの言葉。きっと、私の首にあるこの赤い跡が何なのか気付いている人達。気まずそうに視線を逸らしている。
「・・・・・・」
助けを求めるように宗介さんの方に顔を向ける。だけど、宗介さんも真琴先輩達と同じように、少し赤い顔をして横を向いてしまっていた。
・・・宗介さん、ひどい!原因を作ったのは宗介さんなのに!少しぐらい助けてくれたっていいと思う・・・いや、でも宗介さんが助けに入ったらそれはそれで余計おかしなことになりそうだけど!でも、それでもそっぽ向かなくたっていいのに!
「これ・・・虫刺されの跡ではないんじゃないでしょうか」
「うーん・・・そうっすね。蚊に刺されたところってもっと膨らんでくるし」
「だとしたらこの赤みは一体・・・むぐ!!」
「あ!もしかして・・・むぐぐ!!!」
なんで、なんで百太郎くんと怜先輩はこんなにもこだわるんだろう、ってぐらいに私の首元をじーっと見ている。なんだか分析じみたことを始めてしまって、いよいよどうしようって思ってたその時だった。
「怜ちゃん・・・」
「百くん・・・」
「「そろそろ黙ろうか」」
いつの間にか私達の背後に来ていた渚先輩が怜先輩の口を、そして似鳥さんが百太郎くんの口を両手で塞いだ。
「な、渚くん!何するんですか、僕がせっかく・・・むぐっ!!」
「愛せんぱーい!俺、この赤いのは多分・・・むぐぐっ!!!」