第32章 ふたりの、初めて。 その9
「・・・・・・」
「・・・やっぱ来んのやめて・・・ヒカリんちに二人でいればよかった・・・」
いつもは私ばかりがドキドキしてるのに、今は宗介さんの鼓動もなんだか速くって。本当にどうしちゃったんだろう・・・そんな風に思っている私の耳に、宗介さんがぼそっと呟く声が届いた。
「え、えっと・・・そう思ってくれるのは嬉しいですけど・・・ダメですよ。その・・・みんな待っててくれてるし・・・」
「・・・んなのわかってる。それでも・・・そうしたいんだからしょうがねえだろ・・・」
宗介さんの腕が、更に強く私を抱き寄せる。
・・・やっぱりいつもの宗介さんと違う。今の宗介さんは・・・そう、まるで駄々をこねてる子供みたい。
「あの・・・宗介さん?どうしちゃったんですか?」
「・・・・・・」
少し身体を動かすと、宗介さんが腕の力を弱めてくれた。見上げた宗介さんの頬は、多分、私の頬よりも赤くなっていた。
「え、えっと・・・宗介さん・・・?」
「昨日から・・・」
「へ?」
「・・・昨日からお前のことが可愛く思えてしょうがねえんだよ・・・どうすりゃいいんだよ、くそ・・・・・・」
少し乱暴な言葉とは裏腹に、宗介さんの頬が更に赤くなっていく。そして同時に私の頬も一気に熱を灯す。
・・・そんなの私だっておんなじだ。昨日から、宗介さんのことがもっと素敵に思えて、ふとした仕草にもドキドキしちゃって、大好きが溢れて止まらない。
「だったら・・・」
「・・・」
「・・・たくさん・・・キス、してくれたらいいと思います・・・」
・・・言っちゃった。でも、それは本当の気持ち。いつだって、宗介さんにキスしてほしい。
「・・・はっ!・・・そうか。そうだな・・・・・・」
「・・・はい。ふふふ・・・・・・」
宗介さんの顔が近付いてきて、おでことおでこがこつんとぶつかる。間近で見つめ合って、小さく笑い合って、すぐに唇が重なった。
「・・・ん・・・・・・んん・・・ん・・・・・・」
軽く触れ合うだけのキスを何回も繰り返して。それだけなのに、止まらない。もっともっと、ずっとしていたい。
「・・・ヒカリ」
「・・・そう、すけ・・・」
一旦唇を離してまた見つめ合って。お互いの白い吐息が混ざり合って。私が再び目を閉じるよりも前に、宗介さんの唇が私の唇を塞ぐ。