第32章 ふたりの、初めて。 その9
「お待たせしました、宗介さん」
「おう。そんじゃ行くか」
火の元と戸締まりを確認した後、私は外で荷物を持って待ってくれてる宗介さんのところへ行った。
あの後、単純な私は宗介さんのおいしい朝ごはんを食べたらすぐに機嫌がよくなってしまった。そして、その後は二人で、遙先輩のおうちに差し入れする料理を作ったり、とりとめもない話をしたりして過ごしていたのだった。
「・・・あー・・・ヒカリ。それ・・・」
「あ、はい・・・えっと・・・似合いますか?」
家を出る直前に首に巻いたのは、昨日宗介さんがプレゼントしてくれた真っ白いマフラー。宗介さんの視線をはっきりと感じてドキドキしてしまう。
「・・・ああ。やっぱよく似合ってる・・・・・・その・・・可愛い・・・」
最後の方はほとんど聞き取れないぐらいの小さな声だったけど、私の耳にははっきりと届いた。『可愛い』って。まさか宗介さんからこんな甘い言葉が出てくると思わなくて、かぁーっと一気に頬が熱くなってしまう。
「あ、ありがとうございます・・・」
「おう・・・ほら」
恥ずかしさを振り払うみたいに、宗介さんの手が私の前に差し出される。いつだって宗介さんは手を繋いで、私と同じ歩幅で歩いてくれる。すごく嬉しい。嬉しいけど・・・
「きょ、今日はこっちがいいです・・・!」
そう言って、私は腕を上の方にうんと伸ばして宗介さんの腕にぎゅっと抱きついた。
「っ・・・う、あ・・・」
「・・・ダメ、ですか?」
強く抱きつくと宗介さんは少し頬を赤くして、なぜか固まってしまった。
こんな風に宗介さんの腕に抱きついて歩いたことなんて今までほとんどない。だからすごく恥ずかしい。それに、背の高い宗介さんに抱きつくためには、かなり頑張って腕を伸ばさなきゃいけないから大変だ。でも、それでも構わなかった。今はそれ以上に宗介さんにもっとくっつきたかった。離れたくなかった。
「・・・別に・・・・・・ハルんち着く前には離れろよ」
「ふふ、はーい!」
やっぱりそうだ。宗介さんは照れくさそうに横を向きながらだけど、私のお願いをきいてくれた。嬉しくって、それだけで笑みがこぼれてしまう。