第31章 ふたりの、初めて。 その8
「っっっ!!!」
「ぶはっ!!」
真っ赤になったヒカリの顔が更に赤くなるのと、俺が噴き出すのとが、まったくの同時だった。
「わ、笑わないで下さい!だ、だって、もうお腹すいちゃって・・・」
「はっ、そうだな。俺も腹へったし、早速食うか」
「んっ・・・はい!」
ぽんと軽く頭を叩いてやると、ヒカリは笑って頷いた。
「ん〜〜!美味しい!こんなに美味しいオムライス、生まれて初めてです!」
「いや・・・それはおおげさだろ」
もうすっかり見慣れているが、驚くほどの速さでヒカリの口の中へとオムライスが消えていく。気持ちいい食いっぷりだとは思うが、一体こいつの小さい身体のどこに吸収されているんだと疑問で仕方ない。かなりでかめに作ったオムライスがもう半分以上なくなっていて(ちなみに俺はまだ3分の1も食ってない)、もうひとつ作ってやった方がいいかな、などと俺がぼんやり思っていた時だった。
「でも私・・・宗介さんのオムライス、ずっと食べたかったから。その・・・・・・文化祭の時から・・・」
「ヒカリ・・・」
スプーンを口に運ぶ手を止めてヒカリがぽつりとつぶやいた。俺も手を休めて、あの日のことを思い出した。
自分がまいた種が原因で、ヒカリを傷付けたこと。ヒカリに手を振り払われ、大嫌いと言われたこと。もう二度とヒカリが俺に笑いかけてくれないんじゃないかと不安で仕方なかったこと。だけど、本音で話し合うことができてまた心が通じ合えたこと。あの時抱きしめたヒカリの身体の温もりも柔らかさも、初めて交わした深いキスも、まだ鮮明に覚えている。あの日のことがあったから、俺達の関係が動き出して、そして今日のこの日に繋がった。
「・・・だから私・・・今、すごくすごく嬉しいです。ふふ」
「・・・・・・そうか」
目を伏せて、一瞬泣き出しそうに見えたヒカリだったが、すぐに顔を上げてにっこりと笑った。やっぱりヒカリは泣いてるよりも笑ってる方がいい。こいつの笑顔が好きだと改めて思った。