第31章 ふたりの、初めて。 その8
「わああ、美味しそう・・・!」
俺が皿に盛りつけたオムライスを見て、目を輝かせるヒカリ。
俺は今、ヒカリんちのキッチンを借りて、夕飯の準備を終えたところだった。ちなみにオムライスはヒカリのリクエストだ。
「すごいですね、宗介さん。私、こんなに綺麗に作れないですよ」
「まあ・・・こんなもんだろ」
「えっと・・・なんかすいません。結局宗介さんに全部作ってもらっちゃって・・・」
そう言って俺を見上げてくるヒカリ。そんなヒカリの頭に、そっと自分の手を置く。
「別に構わねえよ、こんくらい。お前・・・身体つらいだろ。結局2回目も無理、させたし・・・」
「う・・・あ・・・まあ、あの・・・えっと・・・はい・・・」
俺がそう言うと、ヒカリの顔が一気に耳まで赤くなった。あの後、『努力する』、なんて言っておきながら結局ヒカリがぐったりするまで、思い切り抱いてしまった。まあ、それも全部ヒカリが煽るようなことを言ってきて、俺の歯止めがきかなくなったのが原因だが、それは今はどうでもいい。
とにかく、ふらついた足取りで階段を降りるヒカリに飯の準備をさせるわけにもいかず、俺がやると申し出たのだった。もちろんヒカリも最初は、そんなことさせられないと渋った。だが、余程身体がつらいのか、俺が少し強めに主張したらおとなしく引き下がった。そして、俺が準備をしている間は、ソファーで身体を休めていた。
「・・・だから気にすんな」
「は、はい・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しんとキッチンが一気に静まり返る。
・・・いや、こんな話題出した俺が悪いんだが、なんでまた妙な空気になってんだ。ヒカリのやつも真っ赤になったまま、何も言わねえし。いや、それは俺も同じか。顔に熱が集まってるのがわかる。
・・・なんでもいい。とりあえずこの空気を変える何かを言わねえと・・・そんな思いで、俺が頭の中の引き出しを必死になってひっくり返していた時だった。
『ぐぅ〜〜』と俺の耳にもはっきり届くほどの音を立てて、ヒカリの腹が鳴った。