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飛行機雲 【暗殺教室】

第2章 はじめての時間


「おかえり!」
 先生を驚かせようと思って物陰に隠れていた私は、視界に黄色が入ってきた瞬間に正面から抱きつく形で飛び出したが、マッハで動ける先生には触れることすら出来なかった。さっと私を避けた先生は顔色を緑と黄色のしましまにして、甘いですねぇと余裕たっぷりで言った。
 別に暗殺しようとして飛び出したんじゃないから避けなくてもいいのに、と内心思いつつも声にはしなかった。
「どこに行ってたの?」
「ちょっと麻婆豆腐を食べに中国まで行ってきました」
「中国……」
 先生は空を飛べるけど、私は飛べない。
 当たり前の事に、心臓のあたりがチクリと痛んだ。
 自分自身を誤魔化すようにわざと声を明るくして、先生のアカデミックドレスを掴んだ。
「私がいなくて寂しかった?」
「勿論です。体調の方はもう良くなりましたか?」
 こうして体調を心配されると、今更ながらに嘘を吐いたことが悔やまれた。だけど先生にはまだ話せなかった。
 今まで通りにじっと耐えていれば、一年後には先生が地球を終わらせてくれる。私を解放してくれる。
 悠久の暗闇は、もうとっくに晴れているのだから。
「うん、元気!」
 言いながら、スカートのポケットから携帯電話を取り出した。
 先生の隣に並んで腕を伸ばしカメラを起動する。右手でピースを作って、ボタンを押した。
 パシャッと音がなって、画面には笑顔の私と突然のことで表情を作りきれていない先生の顔が映し出されていた。
「記念撮影」
「にゅやっ!? 撮るなら言ってください先生もっとイケメンに……」
「こっちの顔がいいの、可愛い」
 いくつかのポーズを決めている先生と写真の先生を交互に見て、私は満足して言った。
「ねえ、先生」
 真っ直ぐに視線を向けると、先生は首を傾げた。
 一拍置いて口を開く。
「私、先生のこと好き! だからもう風邪なんて引かない」
 告白というよりも、それは私の決意であった。
 残された時間を少しでも長く先生と居るための、小さな決意。
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