第2章 はじめての時間
聞き慣れた終業のチャイムと、そよぐ風。
頬に微風を感じて窓辺を見遣る。
そして私は恋をした。
先生とお弁当を一緒に食べる約束をしていなかった私は、裏山のどこかで食べようと思い立ち上がった。
風が頬を滑り、ふと窓辺に視線を向ける。そこには窓枠に触手をかけながら生徒達と話す先生がいた。
私が瞬いた後、そこにはもう先生は居なかった。
先生が居たところに漂う風と白煙。
蘇る感覚に駆け出していた。
クラスメイトの視線も気にせず窓から顔を出す。空に描かれている架け橋のような真っ白な線は、あの日のものだった。
あの日もう一度学校に通ってみようと決心させてくれたのは、希望を与えてくれたのは、先生だったんだ……。
殻にヒビが入って、視界がほんのり明るくなる。
顔を隠すように俯いて、噛み締めるように微笑んだ。
描かれた線がすっと空に馴染んで広がっていくのと同時に、私の心はどんどん先生で満たされてゆく。
中庭へ出て、私はまた空を見上げた。
大きく広げた両手が羽根になり、空へ羽ばたいてゆける。
そんな錯覚をしてしまうほど昂っていた。
新鮮な空気をめいっぱい身体に取り込んで、それでも声は控えめにして、
「私、先生のことが好き!」
そう、声に出してみた。