• テキストサイズ

飛行機雲 【暗殺教室】

第2章 はじめての時間


「これは渚君のハンカチですねぇ」
「ふふっ……」
「にゅや! どうして笑うのですかっ?」
「だって、先生の鼻」
「鼻?」
 そう言うと、先生は不思議そうに鼻をヒクヒクと動かした。
 その姿が可笑しくて更に私は笑う。
「や、やめて……鼻の位置に笑ってるの。目みたいな所にあるんだもん」
 笑われていた理由を聞いて納得したのか、先生は鼻の動きを止めた。
「先生って面白いんだね」
 聞こえてくる自身の笑い声が酷く懐かしくて、別人のもののように思えて、はっと表情を固めてしまう。突然声が止んだからか、先生が訊いた。
「どうしました? はともりさん」
「ねえ、一緒にお昼食べよ。私お弁当取ってくるね!」
 悟られたくなくて不自然に話題を変えると、私はそのまま返事も聞かずに校舎へ走り出した。
 お弁当を取って急いで木の下に戻ると、先生はちゃんとそこに居てくれた。
 木漏れ日の揺れる黄色い肌は周りの風景に馴染んでおらず目立っていた。
 はじめて先生と食べたお弁当の味は、良く覚えている。冷えきった白飯はいつもと同じなのに、詰めてあるおかずも特別ではなかったはずなのに、一口また一口と口内に運ぶ動作すらも楽しく感じて、終わってしまう事が惜しかった。
 先生は私を待っている数分の間にコンビニへ出掛けて、マッハで買ってきたと言う沢山の甘いお菓子を食べていた。それがお昼ご飯なのかと目を瞠ったことも、おかずを一つあげたことも、それを快く朗らかに笑って食べてくれたことも、良く覚えている。
「一緒に食べてくれてありがとう」
 お弁当を完食した私は、立ち上がってスカートの裾を直した。
「じゃあね、先生! ……明日も、ここで待ってる」
 手を振って駆けだした。後半は春の風に紛れて消えてしまう、小さな呟きだった。何かしらの理由を付けないと明日も学校に通える自信がなかった。だから、気づけば声に出ていた。

 それは遠回しに取り付けた身勝手な約束。
 聞こえてないと思っていたのに、次の日も先生は木漏れ日の下で触手を動かしていた。
 きらりと反射する陽光が眩しかった。
/ 34ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp