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飛行機雲 【暗殺教室】

第2章 はじめての時間


 四時間目の授業が終わって昼休み。私は校舎を出て隅の方にしげる木の上にいた。枝に何か布のような物が引っかかっていたからそれを取るためだった。
 腕を精一杯伸ばしてみた。人差し指が布を掠め、あと少しで届きそうだった。幹を掴む左手に汗が滲む。勢いを付けた右腕が布を掴んだ瞬間、私はバランスを崩した。
「わっ……!」
 ゆっくりと転がるように背中から落ちる。
 そこまで高くない木だけど全身を打ち付ければ痛いだろうな。
 自分自身に起きていることなのに、他人事のような感覚があった。
 訪れるであろう痛みに身構えていたが、一瞬の浮遊感の次にはもう足は無事地面に着いていた。
 恐る恐る顔を上げると、触手がぬるぬると動いていた。先生が落ちた私を受け止め、しっかりと立たせてくれたのだと理解するにはまだ謎が多かった。
「大丈夫ですか、はともりさん」
「せ、先生……どうして」
 周りには誰もいなかった。助けてくれる人など誰も。
 校舎からも多少離れているし、声を発してからまだ数秒しか経っていない。常識的に考えて間に合うはずがなかった。
 先生はそんな私の疑問も見透かして、口元に弧を描く。
「はともりさんの叫声が聞こえてきたので先生マッハで飛んできました」
 そう言えば、先生の最高速度はマッハ二十だと言っていた。マッハのスピードがあればここまでの距離なんてものともせず何往復も出来るだろう。
 先生には、私の常識は通用しないのだ。
「ありがとう先生、助けてくれて」
 笑顔でお礼を言った。
 気づいてくれたこと、間に合うように駆けつけてくれたこと、名前を覚えてくれていたこと、全てがはじめてで、嬉しかった。
「いえいえ、生徒を助けることは先生として当然のことです。ところでどうして木に登っていたのですか?」
 普段の私なら本当のことは言わずにはぐらかしていただろう。
 でも、先生には素直でいたいと思った。本当の私をさらけ出せる気がした。
「これ、ハンカチかな。枝に引っかかってたから取ろうと思ったの。誰のかは分かんないんだけどね」
 そう言いながら握っていたハンカチを広げて先生に渡す。
 先生はハンカチを受け取ると匂いを嗅ぎ始めた。
 はじめて教室に入ってきた時から先生にはずっと驚かされっぱなしだった。その驚きがとても新鮮で、もっと先生の事を知りたいと思った。
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