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飛行機雲 【暗殺教室】

第2章 はじめての時間


 下山すると、校舎の方が何やら騒がしかった。先生の焦っているような声も聞こえて、何をしてるんだろうと気になった。
 顔だけ出して覗いてみると、花壇にしゃがむ先生の姿と岡野さんと片岡さんの強い声があった。
 先生の生徒は私だけじゃない。身勝手ながらに疎外感を感じている自分がいた。だからつい足が向かってしまったはのそのせいだと思う。数歩進んで、声を出した。
「何してるの?」
 頭の中でも声がした。私が私に問いかけてくる。何してるの、と。
「あっ、はともりさん! 聞いて、殺せんせーったらクラスで育てたチューリップ抜いちゃって」
 片岡さんが明るく言って困ったように笑ってみせた。ほんの少し、私の表情を伺うように岡野さんが続く。
「そう言えばはともりさんは植えてなかったよね」
「うん……クラスの花壇、なのにね」
 独り言のように呟いた。
 登校するようになる前に作られただろうチューリップの花壇。
 今は先生が新しい球根を埋めている。
「ね、殺せんせーのこと手伝ってあげて! はともりさんも入れてクラス皆の花壇だから」
「……ん」
 片岡さんと岡野さんが微笑み合うのを見て、私はしゃがみ込んだ。すぐ近くにいる先生だけには、涙が滲みそうになったことがバレちゃったかもしれない。
 渚くんも、杉野くんも、片岡さんも、岡野さんも、E組のみんなはこうも温かい。春の日射しみたく私を包み込む。
 本校舎で同じクラスだった人達も最初は話しかけたりしてくれたけど、ずっと無愛想に振舞っていた私にだんだん声をかける人はいなくなっていった。E組のみんなにも、同じようにしていたはずなのに。挨拶してくれても、私はそっちに視線を向けるだけ。捉え方によっては睨まれた、と思う人もいたかもしれないのに。
「先生と一緒に植えましょう。チューリップの球根と一緒に花の種も買ってきました」
 そう言って、私に種を渡してくれた。相好を朗らかに崩した先生は、どこまでも優しかった。午前中からの不安は杞憂だったようでまた泣きたくなった。
「どんな花が咲くか楽しみですねぇ」
 溢れそうになった何かを、花の種と共に埋める。
 
 もう問いかける声は聞こえなかった。
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