第2章 はじめての時間
学校にはいつもより遅く着き、教室へ向かう途中の廊下で先生とすれ違った。
「先生! おはよ」
「おはようございます。はともりさん」
普段通りの先生にほっとする。それと同時に、小さな後悔が広がっていく。「私、友達いないの」「何かを望んだら今あるものがなくなっちゃうから」――昨日の放課後、言うつもりのなかった胸の内を晒してしまった。変な子だと思われただろうか。
もし嫌われてしまったらと思った瞬間、吸い込んだ息が喉に詰まった。被害妄想だと分かっていても、一度よぎった不安は拭いきれない。
席に座ってチャイムを聞いた。表情が強ばっていることが自分でも分かった。
先生を独り占めできるお昼休みがやってきても、気分が晴れることはなかった。今日は誘いづらいから、人目につかない場所を探してそこで食べようと思い、校舎の外へ出る。幸いこの隔離校舎の裏には山々が聳えているので、見つけることは簡単そうだ。
道なき道をしばらく進んで、生い茂る草木をかき分けながら山を登っていく。手のつけられていない裏山はひんやりと涼しい。雑音のない自然な響きに耳を傾ければ小さな虫の足跡まで聞こえてきそうだ。
五分ほど登った所に、木々に囲まれこぢんまりとした空間があった。雄大に葉を伸ばした大木がその空間を隠すように覆っている。秘密基地みたいだと思った。自分だけの秘密の場所。これからはここで食べることにしよう。
先生のいない昼餉は寂しいけれど、これが当たり前なのだ。一人には慣れている。
私だけの秘密の場所ができ、沈んでいた気持ちが少しだけ浮上した。