第2章 はじめての時間
episode05.花
花を植えた。
黄色の花びらが可愛らしい小さな花。
先生と一緒に、植えた花。
はじめて、何かを育てた。育てることの楽しさと難しさを知った。愛着も湧いた。私にとっては特別な花だった。
もう愛でることは、出来ないけれど。
*
目を覚ましてすぐに、頭に鈍痛を感じた。
眠りは深かった筈なのに疲れは全くとれていない。
時計を見ると時刻は午前五時を過ぎた所だった。もう一度寝ようにも寝付ける気がしない。中途半端な時間に起きてしまった。
重たい身体を起こして頭を抱える。家に着いてから眠りにつくまでをどう過ごしたかよく覚えていなくて、昨日のことが遙か昔の出来事のように思えた。夢ではないのだという実感が遅れてやってくる。
渚くん、杉野くんと喋ったこと。放課後に交わした先生との会話。
――何かあったらいつでも先生を頼ってください。
頭の中でその言葉を反芻する。
私は、先生に普通の生徒だと思われたかった。平凡な家庭で生まれ育った何の変哲もないごく普通の中学生。
私の家庭は、傍から見たらきっと普通ではない。そのことを知られてしまったら、先生は私をどう見るのだろう。同情や哀れみで接してほしくなんかない。私の周りを取り巻く環境なんか見ないで、私だけを見ていてほしい。