第2章 はじめての時間
君ははじめて私に懐いてくれた、親しんでくれた生徒だった。
好きだと言われた時、ただそれは超生物としての私に対する興味本位だとか得体の知れないものへの好奇心からくるものだと受け取っていた。
君は私を見かける度に声を掛けてくれた。
「先生、明日も一緒にお弁当食べよ」
こうして誘ってくれることは素直に嬉しかったのだが、そう悦楽に浸ってばかりいる訳にもいかなかった。
「先生を構ってくれるのは嬉しいのですが、お友達とクラスで食べなくても良いのですか?」
君は驚きはしなかった。
嫌な予感が当たってしまったという感じに、息を呑んだ。それから俯いて、笑顔の張り付いた顔をあげた。
「私、友達いないの」
努めて明るい声色だった。
「何かを望んだら、今あるものがなくなっちゃうから……」
「……」
「気にしないで! 迷惑じゃなければ、また一緒に食べてくれたら嬉しい」
「迷惑なんてことはないです。何かあったらいつでも先生を頼ってください」
「ありがと。また明日ね、先生」
君は自ら関わりを遮断しているようだった。その理由を安易に尋ねたりはできなかった。小さく震える背中を追うことも、できなかった。傷口に直接触れてはいけない。
何があっても、先生は生徒を守ります。
あぐりとの約束を果たす為に。
それにはまずはともりさんを苦しめる要因を知らねばならない。
あの子は自分のことを多く語らないから、注意深く見てあげることが大切だ。同じ失敗は繰り返さない。
この頃の私も一つのことに囚われていたのかもしれない。
教師としての、自分に。