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【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】

第4章 僕のスーパーヒーロー


勇利の険しい表情と言葉を脳裏で反芻させたユーリは、やがて張り詰めていた糸が切れたかのように氷の上に坐り込むと、両目から大粒の涙を零し始めた。
かつて勇利からここまで厳しく言われた事がなかった故の衝撃と、同時に勇利にそう指摘されても仕方のない程、自分の滑りが稚拙で粗雑なものであると痛感したからだ。
勇利は、そんなユーリに自分の着ていたコートを掛けてやると、ポケットからハンカチを取り出しユーリの前に差し出す。
無言で受け取ったユーリの背を優しく叩いていると、やがてユーリの口から弱々しく掠れた声が漏れ出てきた。
「ついこの間までは、何も考えなくても出来た筈なんだ…それなのに、今の俺はどうやってジャンプを跳んでたのか、どんな風にスピンを回ってたのか、何もかも判らなくなっちまった。こんなんじゃ、試合どころか満足にスケートなんて…」
「…スケートに対して恐れを抱くようになったのは、ユリオが成長した証拠でもあるんだよ。今、ユリオはそれまで君が持ってた大きな闘志に身体がやっと追いついてきたから、勝手が判らなくて戸惑っているだけなんだ」
「だから、焦らず少しずつ擦り合わせていかなきゃ」と優しく告げられた言葉を噛み締めながら、それでもユーリは割り切れないもどかしさを覚えていた。
「…だけど、そうしている間にも、どんどん時間は過ぎていく。きっと俺の調整が終わった頃には…俺はもっと、もっとお前と……」
「?」
「…お前達と競技したいのに、おれがここで燻ってる間にも、お前達はリンクを去っちまうかも知れねぇだろ?お前にとっての俺は、GPFでお前の優勝を掻っ攫った只のガキかも知れねぇけど、俺は…俺にとってお前は…お前は……」
それ以上は声にならずに息を吐いたユーリを、勇利は何処か真剣な眼差しで見つめる。
暫くの間何か思案するかのように眉根を寄せていた勇利は、やがて一度だけ深呼吸をすると口を開いた。
「本当は僕、昨シーズンのGPFで引退するつもりだったんだ」
さして大きくない勇利の声は、誰もいないリンクとユーリの耳に嫌という程響く。
「日本では、学生を卒業した僕が競技を続けて行くのは難しいし…だから、昨シーズンのヴィクトルとの事は、文字通り『スケートの神様』が僕にくれたボーナスタイムだと思ってたんだ」
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